「天明」醸造元 曙酒造の外観。
震災当時は壁が崩れるなど大変だったそうだが、現在は補修や片付けもほぼ済んでおり、酒造りができる環境を取り戻している。
この方が曙酒造の杜氏を勤める、鈴木 孝市(すずき こういち)さん。
2011年、当時27歳の若さで杜氏職を任された、新時代を担う気鋭の醸造家だ。
蒸し上がり直前の甑。
吹き上がる蒸気で上布がパンパンに膨れ上がっている。
蒸し上がりを迎え、いよいよ仕込み作業開始。
蒸気を止めても甑の中は火傷するほどの高温の蒸気で満たされている。
布の端を持ち、手際良くサッと布を取るワンシーン。
この日の仕込みは、麹、酒母、純米酒の留仕込と盛りだくさん。
ご覧の大きな甑でも上限いっぱいの大量の米。その全てを手掘りで掘り出す。
甑から掘り出した米は、粗熱を取るため「放冷機」と呼ばれる機械を通して熱を冷ます。
その流れてくる米をじっと見る孝市さん。
放冷機の先では流れてきた米を受け、温度が冷めないうちに麹室、酒母室、仕込みタンクへと猛ダッシュ!
代わる代わる蔵人が米を担いでは、蔵の中を全力で走り抜ける様子は見ている側も力が入る。
運ばれた米は、櫂入れを行なう蔵人にバトンタッチ。
全ての米を投入するまで、この放冷機とタンクまでのダッシュを繰り返す。
しかし受け取った側も決して楽な作業ではない。
受け取った米をタンクに投入し、偏りがないように櫂(かい)を入れて軽く撹拌するのだが、タンクの中の数百キロの米が投入されており、そこに櫂を入れる作業は大変な労働だ。
仕込み作業が終わり、タンクの中を見学させてもらう店主吾郎。
店主がのぞいていたタンクは高さがあり、そこには「かけばん」と呼ばれる木製の足場が架けられている。
この辺りの酒蔵では珍しくないそうだが、これは他の地方では見た事がない珍しい道具。
これも会津の酒蔵ならではの1枚だろう。
麹室に引き込んだ米に手を入れる鈴木孝市さん。
手先に伝わる感覚を便りに、麹が元気に育成する理想の温度になるよう米を広げては寄せ、寄せては広げを繰り返す。
今回、種振りの作業にもカメラを持ち込んでの撮影許可をいただきました!
空気中に舞う麹菌がおわかりいただけるだろうか。
曙酒造は昔ながらの木槽で全ての酒を優しく搾る。
年期の入った木槽の設備に見入る店主。
その槽場の側では、前日にしぼった酒の粕はがしの作業が行なわれていた。
全ての仕込み作業が終わり、半切りに浸けられている道具類。
米を運ぶ際に使った麻布に、これも他の蔵では見かけない羽子板様の棒が目についた。
蔵事務所の入り口で、恒例の集合写真。
曙酒造では現在、地元の会津坂下町に住む若者を中心に、平均年齢20代の若いチームで酒造りに取り組んでいる。
一通りの取材を終え、蔵元の母屋でできたばかりの新酒2本と、地元会津の郷土料理での「おもてなし」をしていただいた。
手前の料理は「こづゆ」と呼ばれる、会津地方に伝わる郷土料理。
4代目蔵元 鈴木明美さんお手製のもので、ホタテのダシがとてもよく効いており、本当においしかった。
もともと会津藩の武家料理や庶民のごちそうとして広まったものだが、会津地方には海がないため、ホタテの貝柱をダシ汁に使う「こづゆ」は贅沢品とのこと。
お正月や祝い事、冠婚葬祭の席では必ず用意される晴れの料理であり、蔵元の心づくしに感謝せずにはいられなかった。
そして会津地方のもう1つの郷土料理と言えば、馬肉。
会津地方は古来より馬の名産地の1つであり、乗用の他にも雪深い会津地方では貴重なタンパク源として、古くから食されてきた。
また、会津坂下町には馬の皮革製品が民芸品として存在するなど、馬が生活と密接につながっていることがうかがえる。
写真は桜肉のしゃぶしゃぶ。
天明の純米大吟醸2本が加わり、会津坂下の食を心行くまで楽しませていただいた。
福島県のシンボル的な存在、磐梯山。
鈴木さんのお話によると、会津の天気は曇りが多いとのことだが、取材に訪れたこの日の天気は見事な快晴!
頂上を雪化粧で染めた磐梯山が、雄大な姿を見せてくれた。
会津坂下町から車で30分ほどの場所にある、柳津温泉へのワンシーン。
某バラエティ番組でその存在を知り、一度食べたいと思っていた念願の「あわまんじゅう」と初対面。
蒸したての「あわまんじゅう」に舌鼓を打つ店主吾郎。
そして福島発、全国に広く知られるご当地グルメといえば「喜多方ラーメン」ではないだろうか。
鈴木孝市さんに教えてもらったお勧めのお店「喜一」に訪れた。
札幌ラーメン、博多ラーメンと並んで「日本三大ラーメン」に数えられる喜多方ラーメンの特徴は、この太めの平打ち縮れ麺にあり。
豚骨と煮干をブレンドしたさっぱり醤油のスープが麺によく絡む。
ちなみに喜多方市は人口に対してのラーメン屋件数が日本一多く、スタンダードなスープの他にも、魚の香りが多いもの、味噌や塩味ベースのものなど、店によって多様な味が存在する。
思えば福島の酒も、生もと造りにこだわる蔵、入手困難と呼ばれる「ポスト十四代」と呼ばれる蔵、そして木槽搾りと顔の見える農家の米にこだわる「天明」があり、一言に「福島の酒」と言っても酒質は実に多彩。
ラーメンも日本酒も、福島に来れば自分だけの「好みの味」がきっと見つかるのではないだろうか。