七間通りに蔵を構える「花垣」南部酒造場の外観。
南部酒造場は江戸時代「茶の木屋」の屋号で金物を商っており、大野藩の御用商人として隆盛を極めた大店という歴史を持つ。
こちらが南部酒造場4代目蔵元、南部 隆保(なんぶ たかやす)社長。
より良い酒を造るため、より良い作業を行なえるようにと、細かい工夫や設備に常に心配りをされている。
釜場で甑の説明をしていただいているワンシーン。
一見普通の甑のようだが、実はこの甑は2重構造になっており、甑肌(こしきはだ)と呼ばれる蒸し米がべたべたの餅状になるのを防ぐための工夫が施されている。
花垣の麹室は、昔ながらの木製の室とステンレス製の室の2種類存在しており、これも南部社長のこだわりによるもの。
杉の麹室の良い点は、木が水分を吸ったり吐いたりしてくれる事で、乾燥のコントロールを木が手伝ってくれるメリットがある。
こちらはステンレス製の麹室。
ステンレスの麹室は温度湿度のコントロールが容易で、作業台には麹の総重量が計測できる計器が搭載されている。
ステンレスと杉にはそれぞれ長所があり、どちらがいいのか悩んだ末、両方を採用することにしたとのこと。
槽場では昔ながらの木槽が現役で使われている。
機械制御のヤブタとは、できあがる酒にやはり違いが現れるそうだ。
酒を貯蔵している仕込み部屋には、もろみの温度管理が容易なサーマルタンクがズラリ。
蔵にはホーロー製の大きなタンクもたくさん残っているが、高品質で小仕込みの酒は主にこのタンクで仕込みを行なう。
こちらはボイラー室での1枚なのだが、ここにも南部社長のこだわりがある。
花垣では以前、ボイラーが故障したことで酒造りに大きな影響が出た事があったそうで、以後、万一のためにと予備のボイラーを導入している。
通常酒蔵では1台あれば十分なものだが、こうして2台並んでいるところは大変珍しい。
大野の盆地は緩やかな坂になっているエリアがあり、写真のような棚田を形成している。
写真撮影は9月なのでまだ青い稲が多いが、あともう1ヶ月前後で黄金色に代わり収穫を迎える。
花垣の主力原料米「五百万石」の契約栽培田を見学させていただいた。
大野市は標高が145メートルある盆地であるため、日中は暑く、夜は涼しく、そして朝夕常に風が吹いている特徴があり、米作りにとても適した土地であるとのこと。
大野市の主な産業は農業で、水田面積は3752ヘクタール(2010年)を誇る。
ちなみに酒造好適米の代表的な銘柄である五百万石の特A地区は、ここ福井県大野地区。
良質の酒造好適米が容易に手に入る、酒造りにとって恵まれた土壌だ。
この米はかつて幻の酒米と呼ばれた「亀の尾」。
花垣では契約農家から毎年安定した亀の尾の入手を実現している。
ちなみに亀の尾の玄米は、亀の尾のプロフェッショナルで知られる秋田県の鈴木秀則さんから手に入れたもの。
大野市の自然の恵みは、水も忘れてはならない。
大野市には白山を水源とする地下水が流れ込んでおり、地面を2.5メートル掘るだけで50センチの水たまりが出来るというほど豊富な水が得られる。
地元の人は「御清水(おしょうず)」と呼び、生活用水として利用している。
そしてこの「御清水」は、花垣の酒造りにも使われており、蔵の入り口横には「七間清水」の名称でこんこんと水が湧き出ている。
環境庁の名水百選に選ばれている「御清水」は透き通った無垢な中軟水で、県外からもポリタンクを持ち込んで、この水を持ち帰る人もいるのだとか。
最後に大野のグルメといえば「越前そば」。
そばつゆに大根おろしを入れて食べるのが一番の特徴で、昭和天皇が「越前の蕎麦」としてお気に召され、その後も折に触れて「越前の蕎麦」の話をした逸話もある。